学会概要目的

農業の機械化は、過酷な労働から農業者を解放し、農業経営の規模拡大と企業化を実現したことが大きなメリットであった。
しかしながら、デメリットは、致命的な死傷事故の続出であった。
また、それにともない労災事故補償を確保していない農業経営者の営農と生活を破滅させている事例も目立っている。

農業は、いま、全産業の中で最も危険な業種に陥りつつある。
農水省の調べによると、昭和46年の農作業事故死364件を100.0として、その年次別推移をみると、平成23年は366件、100.5である。しかも、事故死の労災補償の適用を受けたのは僅かに26件、7%だけである。

この41年間の事故死の累計は15,836件、年平均は386件である。事故死が一向に減らない。 この原因は何か。この対策をこれから具体的にどのように展開していくのか。これは農業者の命を守り、事故補償を確保する切羽詰まった重大問題であり、なおざりにできない喫緊の課題である。

いっぽう、従来、危険業種だった建設業の労災事故死の実態を厚労省の調べによって同様にみると、昭和46年の2,323件を100.0として平成23年は東日本大震災を直接の原因とする件数を差し引くと342件、14.7と急ピッチで減少している。実に85%に当たる事故死の撲滅に成功している。建設業は、もはや危険業種ではない。
安全の模範業種である建設業に学び、他産業の労災予防技術との融合をはかるべきである。

農作業安全を考える上でさらに厄介な問題点は、厚労省の調査による産業別死傷年千人率をみると、平成23年の労災加入労働者1,000人当たりの年間死傷者数は、農業8.8、建設業5.2、林業27.7、製造業2.7、全業種平均2.1であった。農林業の事故発生率は異常に高い。
この現状は農業政策的にも、地域農業の振興に努めているJAの営農対策上からも放置できない事態に立ち至っている。
これは、従来の事故防止の研究方法がマンネリズムに陥っていたことを示し、このことが要因になっているのではないか。注意力を喚起する抽象的な理論やパフォーマンスを幾ら演じても事故は防げない。
事故防止技術の世界の潮流は、危険ゼロをめざすリスクアセスメントの手法を十分に機能させる時代に入っている。そのために、厚労省は平成18年、労働安全衛生法の一部改正に踏み切った。

農業サイドにおいては、農作業のリスク水準を引き下げる地域農業の安全管理活動を組織的に推進し、事故予防技術の普及、労災補償対策の推進等の人材養成が当面する緊要な課題になっている。
この際、われわれは農作業事故を着実に防ぎ、農業経営を持続的に発展させるノウハウとその資格を持つプロフェッショナル・エンジニアを組織化して、産官学の堅実な連携作戦を展開するため日本農業労災学会を創立することにした。

当学会は、実学主義を基に農業者と共に事故防止のノウハウと労災補償対策の研究大会をJA組織などと現地で開催し、農作業事故を着実に防ぎ、地域農業の持続的発展に微力ながら社会貢献を行っていく。 関係者のご理解とご加入を賜りたくここにご案内申し上げる次第である。