第4代目の会長を仰せつかった田島です。
39年間農大で教員を務めて参りましたが、今年の3月で定年を迎えました。
専門は農業機械学で、卒業論文で研究室に入った学生時代の1980年から数えると44年になろうかと思います。
農工大で学部、修士の学生時代を過ごしましたが恩師である米村純一先生は当時、中古農機の整備と流通、そのための農業機械の整備士の育成、そして中古で流通する農業機械の安全確保についてご尽力されておりました。
学生時代は40数年後に私が農業労災学会の会長を仰せつかるとは夢にも思いませんでした。
現在はそんな恩師に見えない糸で導かれてこのような巡り合わせになったのではないかと感じている次第です。
自己紹介はこのくらいにして、当学会の今後の可能性について思うところを述べさせて頂ければと思います。
日本農業労災学会の最大の特徴は、社労士の方の会員が多い点です。当学会の起源は農協の現場で農業労災の実態を目の当たりにし、その回避のためには、科学的・学術的なアプローチが不可欠であるという初代会長の故三廻部先生の思いからです。
先生は農業労災を回避するための最も有力な手法はリスクアセスメントであることを航空機の事故回避の事例を元に冊子としてまとめ、リスクアセスメントの手法を農業現場に普及・定着させようとご尽力されていました。
当学会の今までの理事の方の多くは、その思いに動かされて学会の創設に立ち会われた方ばかりです。
そんな経緯で立ち上がった当学会ですが、昨年10周年を迎えたことは喜ばしいことであると思います。
しかし、現在会員数が漸減状態にあり、新たな展開が必要な時期に来ていると感じております。
一つの課題は当学会が学術会議に登録された学会になっていないことです。
学術会議に加盟する条件に会員の半数以上が研究者であること、という縛りがあります。ではここで言う“研究者”とは何か。大学や研究機関に研究職あるいは教育研究職として在籍していれば自動的に研究者と認められますが、実は研究者には明確な定義はありません。
民間の会社員でも、中学や高校の教諭でもある分野に特化した知識と学会誌への論文掲載の実績があれば研究者になります。
当学会が学術会議に登録された学会になれば、当学会誌に掲載された論文が研究実績になり投稿者は研究者になるということになります。
こうなると玉子が先か鶏が先かの議論になってしまいますが、既に実績のある研究者の会員を増やして学術会議の登録を済ませることが手っ取り早い手段かもしれません。
しかし当学会の会誌“農業労災研究”に掲載される論文を増やしていくことで、目的を達成する地道な選択肢も並行して進めるべきと考えております。
ということで当学会の守備範囲で学術的な論文の題材になる分野は何なのか考えてみましょう。
農業労災の対象になる災害は農作業に関わる全ての災害ということになりますが、その内訳は、令和4年のデータでは農作業事故死亡者数が238人で、そのうち農業機械作業によるものが152人(63.9%)、農業用施設作業によるものが5人(2.1%)、機械・施設以外の作業によるものが81人(34.0%)となっています。
また、原因別では、「機械の転落・転倒」が72人と「機械事故」の約半数(47.4%)を占めています。
では、このように現在農業現場で発生している死亡事故の中での最も割合が高い農業機械が関係する事故についての研究課題としては、次の8つがあると考えます。
①機械の構造上の課題、②機械の取り扱いの指示・説明に関する課題、③機械の取り扱いの研修に関わる課題、④機械と人間の関わり方に関する人間工学的課題、⑤ ①~④の因果関係についての解析手法に関する課題、⑥労災認定に関わる課題、⑦労災保険加入促進に関する課題、⑧ ①~⑧に関わる制度のあり方に関する課題、です。
以上を鑑みた上で、当学会の特徴を考えてみると、文理融合型の学会であることから多面的に労災見られること、農業労働災害の実態、あるいは農業労働災害の認定に関しての知見を持つ会員が多いこと、農協などの営農現場に精通している会員が多いこと、が挙げられます。
そして、これらの知見の統計的なデータは、前述の問題解決の糸口を見いだすために必須のデータであり、これらを集めることが可能なこと等も挙げることが出来ます。
以上のことから、社労士の方々が蓄積したノウハウや事例を当学会誌の論文や資料として投稿して頂ければ、それを引用・活用用して新たな知見が得られる論文の執筆が可能になり、好循環が生まれるものと期待できます。
会員の皆様にはぜひこうした資料提供をお願いしたいと思います。
最後になりますが、こうした会員同士の共同作業体系を生み出すためには会員同士の情報交換と親睦の深化が必須であることは言うまでもないと思っています。
対面での意見交換は有効な手段です。
そういった意味ではシンポジウムの後に開催される研究交流会への参加も重要な意味を持つと考えています。
学会活動の活性化のために今後ともご協力の程、よろしくお願い致します。