学会概要会長挨拶

この度、令和2年度より第4期の学会長に就任いたしました北田紀久雄です。

農業労災研究の第一人者で本学会の創設にご尽力された第1期の三廻部眞己会長、農業労災研究に新たな手法でアプローチを試み、学会の発展に貢献された第2、3期の門間敏幸会長の後を引き継ぐ形となり、その責任の重さを痛感している次第です。

会長就任に際し、本学会として社会に何ができるかを常に意識しつつ、会員の皆様のご協力を仰ぎながら、理論と実践の両面から今後の2年間の学会活動を進めていきたいと思っております。
今後ともご指導ご鞭撻を賜りますよう何卒よろしくお願い申し上げます。

私の専門は農業経営学です。
近年はグローバル化の進展に伴う日本農業の国際競争力の強化のため、効率的かつ安定的な経営体の育成が政策的にも求められ、そうした大規模経営、法人経営の育成やそのための効率的な経営管理手法のあり方が主要な課題になっています。
その一方で、就業者の労働環境や安全性に考慮した経営管理手法の研究が疎かになっていたとの反省があります。

日本農業は、家族農業経営を中心に経営体数の急減、農業就業者の高齢化が顕著に見られ、そうした中で農作業事故が依然として高止まりしている現状です。
農林水産省の集計によれば、平成30年度における農作業事故死亡者数は274人であり、前年より30人減少し、昭和46年の調査開始以降最小値となったとの報告がありました。
確かに、それは望ましい傾向ですが、300人台になってから300人を下回るまで9年間もかかっています。
特に、そのうち65歳以上の高齢者の割合が86.5%に達しています。
しかも、10万⼈あたり死亡事故発生件数は、従来危険業主とされた建設業の二倍以上の値となっています。

こうした状況を踏まえ、令和2年春の農作業安全確認推進会議では、農林水産省から今後の農作業安全運動の目標として、昭和29年比で農業機械作業(農業用施設作業や機械・施設作業以外の作業を除く)に係わる死亡事故を3年後(令和4年)に211人から105人に半減させることが提起されるなど、同省をはじめとしてJAや農業関連団体において、農作業事故防止・安全対策は緊急課題となっています。
そして、今後の日本農業を担う農業経営体の育成や存続とっても、農作業安全は必須の要件です。

日本農業労災学会は、平成26年4月に設立された若い学会です。
その設立の目的には、いまだに多い深刻な農作業死亡事故を撲滅したいというヒューマニズムがバックボーンにあります。
農業以外の分野では、官民一体となった取り組みで事故は大きく減少しており、農業でもそうした学際的な取り組みが必要不可欠です。

農作業事故を防ぐためには、医学、心理学、農業機械学、農作業学、農業情報処理学、農業技術の開発にかかわる自然科学、農業労働管理にかかわる農業経営学、農業労災制度にかかわる農業経済学といった学問分野だけでなく、農業労災行政分野、農業労災実務を担当する社会保険労務士やJA組織、農業労災の啓蒙活動を担当する農業機械士、農業法人協会など様々な組織・人材の連携が重要です。
本学会の目的・使命は、「農業労災事故の撲滅による農業経営の持続的発展」と明快です。

この目的・使命に賛同いただける皆様の積極的な参加をお待ちしております。